あの日の歯医者と、ちがう味がした。

 

矯正って、もっと深刻な理由がないと始めないと思ってた。
見た目のコンプレックスがあるとか、人前に出る仕事だとか。
でも実際の私は、「かみ合わせが悪いと寿命が縮むらしい」って話にびびっただけだった。

ネットの口コミを信じて、一番よさそうな歯科を選んで、
芸能人がよくやってるらしいという理由で、マウスピース矯正に決めた。
営業職だから、銀色の装置はちょっと無理だなと思ったのもある。

 


 

歯科矯正は知らないことだらけ。
それにしても、知らないことだらけだった。
「歯医者って、予約できるんだ……」
待ち時間を覚悟してた私には、それだけで文明開化だった。

Webでカウンセリング予約をしたら、2週間後が最短。
問診票の事前入力もあって、「抜歯してもいいか?」とか「矯正中に気になること」みたいな項目がずらっと出てきた。
あまりに情報を求められて、私の中のセキュリティ担当がざわついた。
でもたぶん、面倒くさいだけだった。

 


 

カウンセリング当日。
玄関の自動ドアが開いた瞬間、あの“歯医者のにおい”がした。
小学生のころ、泣きながら通ったのを思い出して、少しだけ緊張する。

でも中はちゃんとしてた。
3D撮影、歯の状態確認、口の中に手を入れられて思ったのは、
「あ、私、こういうとき口が小さいんだった」
器具が痛くてちょっと泣きそうだった。

 


 

カウンセリングの時間はだいたい40分。
思ってたよりちゃんとしていて、思ってた以上に、疲れた。

人に口の中を見られるって、こんなに体力使うんだっけ?
大人になってから初めて、口の中をまじまじと、みられた。
何も悪くないのに、ちょっと恥ずかしかった。

 


 

一通り終わると、「次回は今日の検査結果をもとに、治療方針をご説明します」と言われた。
つまり今日は“口の撮影会”で終了。

帰り道、ずっと口の中に器具の味が残ってて、
あれ、昔の歯医者のより刺激がマイルドだったな、とぼんやり思う。

なんだか、大人になった気がした。

 

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
矯正をはじめて実際思ったこと、まとめてます。
マウスピースを、外しているあいだに。

 


 

#味でわかる大人化
#あの頃ほど泣かなかった
#口を開けただけの午後

 

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