本気出す前に、もう少しだけ。

 

ゴールデンウィークが終わった。

街の空気も、カレンダーの色も、

見間違いじゃないくらい、きっちり“通常”に戻っていた。

 

でも、私にはまだ残っていた。

ゴールデンウィーク明けから次の土曜日までの3日間。

ほんの少しの、火種のような3日間。

 

営業職だけが持っている——

「外回り」という名の、静かな延長戦だ。

 

出勤はしている。

スーツにも袖を通したし、会社にも顔を出した。

ただ、仕事をしないという意志だけは持っていた。

 


 

今日、いちばんに会話したのはカーナビだった。

「この先、踏切です」の言葉に、「承知しました。」と返す。

その返事が、今日唯一の業務連絡。

なんなら、今日いちばん人間味があった気がする。

 


 

休日の終わり、急に“通常営業”は無理だ。

だから俺は、自分に都合のいいように、忙しい男になる。

会社には「営業行ってきます」

クライアントには「予定が詰まっていて来週で」

ただ、何もしてないはずなのに、変に疲れる。

“バレるかも”という焦りが、内側だけをかき乱す。

普通に働いてた方が楽だったんじゃないか?

そう思ったのは、たぶん幻覚だ。

 


 

自宅前に停めた営業車を、

カーテンの隙間からそっと確認する。

社名が入ってない車体だけが、味方に見えた。

 

「猫が心配だった」と、誰にも聞かれてない言い訳を自分にだけ言う。

猫は元気そうだった。いつも通り、何も知らない顔で。

罪悪感を中和しようと、昼飯は自炊にした。

味は薄めたつもりだったけど、やけにしょっぱかった。

 


 

帰社中の車の中で、小さくつぶやく。

 

「来週からはちゃんとやろう」

 

その言葉がどれくらいの効力を持っているのかは、

自分でも、あまりよくわかっていない。

「この先、渋滞です」とカーナビが言った。

いつもなら嫌なその言葉が、

今日だけは少しうれしかった。

 


 

連休は終わった。

でも、自分がまだ社会人に“戻りきれていない”ことだけは、

はっきりとわかる。

 

だから俺は「明日から本気出す」という、ありがちなセリフで、自分を今日も肯定した。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

本気を出した日も、結局やる気がないから暇つぶししてます。

踏まない理由はないけど。

 


 

 

#猫が元気でなによりです

#どこにも行かない外回り

#本気出す準備中(3日経過)

 

 

タイトルとURLをコピーしました