なんとなく入ったコンビニで、フラフラと棚を眺めていた。
思ったより何もほしくなかった。
コンビニに入る時点で本当は何か欲しいわけではなかったのかもしれない。
それでもひと通り目を通していく。
おにぎりの棚とお弁当の棚は、ランチタイムを乗り越えたコンビニにしては
思ったより品ぞろえは豊富だった。
ざるそうめんという商品を見つけて、「もう夏だ」と思う。
実家で土曜日の昼ご飯がそうめんだった日はハズレの日だった。
お腹はいっぱいなのに、口が満足しないからだ。
たまに、からあげが一緒に出たときには、アタリの日になった。
ただそうめんには目もくれず、ごはんとからあげで食べていた。
つまりそうめんがハズレだった。
でも今は、たまに食べたいと思うくらいには大人になった。
あの時あんまり好きじゃなかった、という思い出がおいしいのだ。
しかし、その思い出を食べれるほど、お腹は空いていなかった。
ついに日用品のコーナーまで来てしまい、いよいよ買うものもなくなってきた。
日用品コーナーの向かいには漫画、雑誌のコーナーがあり、そこにおじさんが立っていた。
どうやら何かを立ち読みしているようだ。
なんとなく、その背中から視線を感じた。
このおじさんは凄腕万引きGメンに違いない。
“凄腕”に勘違いされないように、ポケットから手を出して無罪を証明しながらおじさんの後ろを通った。
結局何も買わずに出口に向かう。
店内には凄腕と店員さんと私。
私が万引き犯だったら、今日で捕まっていた…ような気がする。
2人の視線が、なぜかやけに自信ありげに見えた。
2人の目がきらりと光っていた気がした。
何も買わず(もちろん盗まず)ドアに手をかけるとき、
やはり私の心の中は「万引き犯と勘違いしないでくれ」だった。
出入りするときに鳴る音楽が異様に大きいような気がした。
子供のころは、もっぱら強盗をかっこよく倒すヒーローになる妄想をしたものだ。
いつからだろう。
私の妄想が、万引き犯に間違えられるという被害妄想に変化したのは。
何も買わずに出たときは、いつもなんとなく申し訳ない気持ちになる。
心の中ではいつも礼儀正しい私は、今日も、
「お邪魔しました。」と出口に想いを添えておいた。
礼儀は、見せるより、持ってる方が気持ちいい。
そう思うだけで、今日はなんとなく救われた気がする。
家について冷蔵庫を開けたら、いつものビールがなかった。
結局いつものコンビニで買った。
どうせ買うなら、さっき買っておけば、凄腕と心理戦をする必要はなかったのに。
コンビニ袋を持ちながら、扉をくぐる。
「いつもありがとうございます。」とこのコンビニでも添えておいた。
添えるのは、自由。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
心の中でだけ踏みとどまる話、もうひとつ。
#万引きしないのに一応防犯カメラ見る
#凄腕との高度な心理戦
#心のなかでだけでもいつか伝わる